<風> 二章 “ヒト違い” 2
刃と刃が向かい合って、互いの血を流させようと今日もまた争っている。 紅刃、白刃。鋭利な体で相手を傷つける。全く同じモノ達なのに、すぐ近くにいながら寄り添うことも出来ないのは、哀れだと、思う。 買い足すものは少ない。獣肉の臭みを消すための香辛料を少々と剣を手入れする際に使う油、その他目についたものをそろえても、値は安く量も少ない。特別拠点は決まっていないが、人里から人里へと移動することの多い二人は、大物狙い、一攫千金を夢見るモノ達のようにごちゃごちゃ荷物を必要としないのだ。 感じるか感じないかの弱い風が吹いている。夜ではあるが、大気は暖かい。すぐには戻る気になれず、シンは繁華する町から離れるように外れにひっそり立つ林へ向かう。林とはいっても小さなもので、一、二分歩けば木々は途切れ、町中から区切られたそこには月明かりにぼんやりと姿を示す不ぞろいな石の群れ。・・・墓地だ。墓の下に眠るのが誰かも知れない他人の骨だと思うと怖くなった時期もあったが、二十を当に越えて、そんな可愛い想像はとっくにしなくなっている。 ――この墓の下に大切なダレカの骨はない。別れた幼馴染達、村から一足先に去ったシルフィラ。自身が賞金稼ぎになって、魔獣というモノに殺される彼らの夢を、見たことがある。 「・・・アイシークは、ランドールは、カーヤトッニは、きっと今でも」 あの村で暮らしているのだろうと思う。 背後に絶壁が構えた深い山奥の、小さな小さな、村とも言えない集落。若者や子供は少なく、皆ゆうに三十を後半に数え、大事なく育つ子供五人を、父母関係なく育てていた。若い者は稼ぎに外へ出たか、流行病で命を落としたか・・・彼らは、山村に生まれた新しい命であった。 光だと、言われたことを覚えている。誰に言われたのか・・・親だったか周囲の大人達であったか、それは定かでないが、お前達子供は私達の光だ、とそう告げられた。 確かに、幼い頃、世界は光っていた。空に舞う木の葉も、春を教える突風も、戯れる幼馴染の背中にも、光はいつだって輝いていた。でも今は・・・空に輝く二つの月と、夜空に彩を添える星々が光を放つだけだ。 「帰るか・・・」 後悔は数え切れないほどしたし、自責の念は年がいくら過ぎても薄まらない。それを消し去る道があるのに、尻込みするなんて。ふ、と嘲笑をこぼし、 「会ってやる」 覚悟を、決めた。 会って、確かめ、話す。過去と準備なく向き合わされて、ついつい常の己を忘れてしまったが・・・。 「考えすぎるのは俺の悪いクセだって、いつも言われているしな」 手足が先に出る相棒と違って、考えてばかり。頭脳労働だけだと煮詰まる。一見は百聞にしかず、ドコカのダレカの先祖の言葉に従って、シンは一歩を踏み出した。
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