<風> 二章 “ヒト違い” 3
酒場はこれからが本番だ。さすがある程度の大きさがある町だけあって、遅い時間になると踊り子が出る。透けそうなほど薄くさらりとした布地は赤白黄、手首足首につけた鈴が、彼女達が動くたびしゃらんと鳴る。 「あら、お兄さん。見ていかれないの?」 盛り上がる酒場を横切り二階に一直線向かうシンは、赤い踊り子に話しかけられ、 「あとで」 素っ気無く返し、わき目も振らず上がっていった。 んもぅ、付き合い悪いわね、ぷりぷり怒った声が追いかけて消えた。 「ガディス」 部屋の扉を開けると同時、相棒の姿を確認することなく呼びかける。なんだー? あっけらかんとした返事があって、シンはそちらを向く。入って左のベッドで、明るい茶色の目がくるくる回ってお出迎え。 「頼みがある。付き合ってくれ」 ガディスが上体を起こした。真っ直ぐシンを見つめて、 「どんな?」 質問するその頭に猫の耳でも見えそうな気がする。尻尾があったらぴんと立ててそうなほど興味津々に、声を弾ませる。 「追いかけたい。とりあえず、どこに行ったか聞き込んでほしい」 シンがあくまで冷静に躊躇うことなく告げると、ガディスはおおげさなほど目を見開き、叫ぶ。 「おお!!! 心境変化か?! 立派立派!」 空気に氷が張り始める。その兆候を見逃さず察知したガディス、じゃあ決心が揺るがないうちにっ!! と言い捨てて、シンの横を通って部屋を出て行った。 ・・・ふぅ。ごく小さなため息が部屋の中を反響した。 ――数分後、戻ってきたガディスの情報では、ここから南に向かったらしいとのこと。ずいぶん早いなと訝しむと、下で話す塊の中にそれらしい話をしていたモノがあったので、目をつけていたらしい。耳聡いことだ、内心舌を巻く。 「南か・・・どんどん田舎に向かっていくな」 「北にはトラードがあるのにな」 トラードは、ノジィリ大陸中一番と言えるくらいの繁栄を誇る交易の町だ。二人は行ったことがないが、情報ならあそこが一番集まるだろうに、と不思議に思う。彼らは代わりに、南方・・・田舎に近ければ近いほど、よく知った場所が多くなった。 「ここから南で一番近いのは、あそこか?」 「・・・あの、なんだかんだと問題の絶えない村」 そろって嫌そうに顔を歪める。数度依頼を受けてきたが、何故か後味が悪いため、鬼門なのだろうと思っている村、サフス。 「今度は、盗賊らしいぜ」 「よくよく問題のある村だな」 そう言うしかない。決心は揺るがないが、明日からの旅が憂鬱にはなった。
|