<風> 二章 “ヒト違い” 7
青い踊り子はすぐわかった。まとう布が、三人別々の赤黄青だったので。 「お嬢さん、こんばんは」 気さくに話しかけたガディスに、青い踊り子・・・ようやっと少女から大人になり始めたばかりの彼女は、白い歯を赤い唇の間からわずかにのぞかせ、大人びた表情で、 「こんばんは、お客さん。楽しんでいらっしゃる?」 女にしては低めのハスキーボイス。そして微笑。少女らしい若さの中に艶めかしい女が混在し、ガディスは不覚にもどきっとした。 「い、いや、もちろん、楽しんでるよ! お嬢さん、キレイだねー」 「あら、ありがとう。嬉しいわ」 本当に嬉しそうな表情で笑うので、そんな時は年相応可愛く見えた。しびれを切らしたシンがガディスの後ろから顔をのぞかせ、 「悪いな、邪魔する。先ほど、これをもらったんだが」 老人から受け取った二の腕ほどの長さの麻紐を見せると、途端、彼女は表情を営業用へと切り替えた。 「あら、あっちのお客さん? はじめましてね。何を知りたいの?」 年は二人より下であっても、すでにいっぱしの情報屋。唇の端を引くような笑みと、二人を招き同じ机の椅子の一つに足を組み座る仕草には、泰然自若とした貫禄がある。老人とは一味違うが、その醸し出す雰囲気に暗さやせこさは感じない。信用出来る、と思った。 「ヒトを探してる。名はシルフィ。髪の色は鈍金色で、目は灰色。この町にいると思うが、明日になる前に会いたい。知っているか」 彼女は内容を吟味して、それからそのしなやかな指を一本立てた。 「その程度なら、すぐだわ。少し待っていて。・・・ああ、今日はお試しよ。お金は取らないわ」 その代わり、あたしを贔屓にしてね。そういい残して、彼女は一度宿屋を出る。しばらくして戻った時には、その手にメモが一枚握られていた。 「ここよ。上が現居場所の酒場で、下が泊まっている宿屋。場所はその辺歩いてるヤツに聞いてちょうだい。そこなら誰でも答えてくれるわ。お金は一日分だけ払って、明日には出て行きそうよ」 感謝する、と頭を下げた二人に、彼女はまとった青布をひらりと揺らして、 「お気に召されたかしら、お客さん」 不敵に微笑み、また踊りに戻っていった。
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