<風> 二章 “ヒト違い” 8
ガディスは一人歩く。シンはひとまず宿屋で待し、ガディスはシルフィをシンの元までつれていかなくてはならない。二人で探せばとガディスは言ったのだが、シンはどうも、報酬も受け取らずシルフィがここまで来たという行為が気になっているらしい。ひとところに長く留まらないこともまた、気にかかるようだ。 「にしても、見つかるかなー。金髪灰目なんてざらにいるし。すごいキレイだってのも噂だし、第一個人の好みはさまざまだし」 やる気がないわけでは決してない。案ずるより産むが易しというではないか。・・・つまりは、心がかりなど二の次にして、シンが来るのが一番早いだろうに、と文句垂れているのである。 一杯飲んで酒場を出る。目当てのモノは、いなかった。 「困ったなー・・・」 心底困っている。シンの期待を裏切るのも、機嫌を損ねるのもイヤだ。というか恐ろしい。 諦めきれずにそこらをうろうろ歩き回ると、何やら言い争う声がする。野次馬根性で、ガディスはそちらに近付いた。 「・・・あ、いた」 そして、見つけた。 柄の悪いヤツらに囲まれる女性は、場違いなほど端正な顔立ちをして、暗い路地裏、月の光のみが差し込む壁際で、鈍い金色の髪を宝石のように輝かせ、立つ。 確かに、一目でわかった。半端じゃなくキレイだ。情報屋の踊り子の艶やかさとは違った、どこか作りモノめいた美しさだ。 「コレ、いい感じだな」 しかも、ちょうどいいきっかけだ。ガディスは何やら言い募るヤツらを背後から音もなく奇襲、あっという間に地に伏して、グーに握った右手を開いて振った。 「あー、ヒト殴るの久しぶり。あんた、怪我ない?」 壁際に追い込まれていた女性・・・シルフィは、しばらく驚きで固まっていたが、すぐに微笑を取り戻し、 「ありがとうございます。あなたは?」 淑女らしく聞き返す。あるわけないじゃん? にやり笑うと、お強いですねと微笑みを深くした。 「助けてくださって、ありがとうございます。私、シルフィと申します」 「俺はガディス。こんなところを、あんたみたいな美人が一人で夜歩きは危ないぜ。宿屋まで送ってやるよ」 シルフィは少し迷った後、一回“い”と口を開きかけて、やめた。 「・・・はい。お願いします」 ガディスは内心ほくそ笑む。・・・後はこっちのもんだと。
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