fate and shade 〜嘘と幻〜

〈風〉   三章 “ヒト殺し”   10





 シンパスはほどなく目を覚まし、両腕に包帯を巻いたシルフィラに驚き、珍しく不機嫌そうなガディスを不思議がり、周囲の様子を見て唖然とした。

 とても、問いただしたくなった。シルフィラ、お前、何を隠している? と。けれど、いつかきっと話すからと約束した。だから聞けない。もし破ったら・・・二度と話してくれなくなると予想がついて。

 ――夕闇が近付いてくる。だが彼らは出発した。その場に留まる気も、今じっとしていることも出来なかった。

 誰も口を開かない。沈黙は、昼の鳥が巣に帰るはばたきを、夜の鳥が鳴き始める声を、そしていやに美しく夕暮れを強調して、夜が更けても続いた。

 

 めっきり口数が減った。

 ガディスの明るい態度も何の慰めにもならない。シルフィラとシンパスはどこか避けあっているようにぎこちない距離をとり、ガディスはいまや、どちらの間もとりもてない。

 トラードまで残り約二日。ラーデを過ぎてから三日目、シルフィラの口からまたしても“コウ”という名前が飛び出した。その瞬間、どこか痛むような顔をした。

 コウとは誰だろう? だがそれも、また訊けない。

 

 日々を消化していく。簡単に見えて、この作業は意外と難しい。また、難しいと思えてわりと簡単だ。簡単なのは、すでに考えるのを放棄したガディス。対してシンパスは、数日過ぎてもいまだ消化不良だ。まあそれも、仕方がないだろう。元より頭脳労働はシンパスの役目だし、考えすぎて混乱するのはいつものことで、自分の幼馴染のことならば・・・さらになおさら。

 ――トラードまで、あと半日。




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