<風> 三章 “ヒト殺し” 12
ランドールに導かれるままとある食堂へと招かれた三人は、そこでカーヤトッニに出会う。 明るい紅葉色を灯した髪は緩くウェーブして背に落ち、薄茶の目は三人を捉えると大きく見開かれる。泣きながら名を呼んで、駆け寄って、しばらくしてから怒りだした。誰も頭が上がらない。関係ないはずのガディスですら、気付けばつられてごめんと謝っていた。 そこから、幼馴染同士の会話に花が咲く。多少ならば気にしないガディスでも、さすがに居づらさを感じて、全員に酒が回ってくる頃そっと抜け出した。 空に月。そして星。地上の明かりに霞むように、不確かで曖昧に見える。けれど歩いても歩いてもついてきて、他のどの光より確かに、そこにあるんだと気付く。 「ガディス!」 ぼうっと歩いていたら、背後から呼ばれた。振り返る。あれ、と思う。 「シルフィ。お前、いいのか? もっと話してろよ」 積もる話もあるだろう。特別話好きではないシンパスですら、自ら輪に加わっているのだから。しかしシルフィラは、いいの、行きたい場所があるから、と首を振る。 「行きたい場所?」 「そう。・・・見てきたいんだ」 ついていってもいいかとガディスが訊けば、ごめんねと返事がある。いや、いい、気をつけてけよ、そう声をかければ、うんと返事がある。 たたっと小走りで去っていく背中に、鈍い金色をした髪が翻る。それはいつの間にか一本に束ねられていて、わずかな明かりを反射して、きらりと光る。向こうの角を曲がって、消えた。 ガディスは、のんびりと歩く。今この瞬間一人ぼっちと、そう感傷的になるほどではないが、潮時かと、そう思えばやはり寂しくはなった。 ・・・もう、シンパスとの約束は果たされたと、自分の気持ちに折り合いがついたら。 そうしたら、相棒のところへ戻ろう。今日は飲み明かそう。そう、思った。
|