<風> 三章 “ヒト殺し” 13
あの時、怒らなかった。 ただ笑っていた。泣き濡れる頬を拭う手。男は泣くなと、そんな古い格言めいた言葉を口にして、笑えと言われて。 笑えなかった。それでも、怒らなかった。ただ、ひどく悲しそうな顔をして・・・。 お前は、俺も、殺すんだな、と。 ――ひとりってこんなもの? 死んでしまうんだとわかり、初めて、本当に気付いた。 「・・・コウ」 崩れ去った教会。高い壁も障害にならない。壁の上に座り見下ろして、夜闇に浮かぶ廃墟の姿をしっかり目に焼き付ける。 コレは、俺がやった傷跡だ。 全くの運だった。もし――もしもあの時コウが止めなかったら? もしも打ち所が悪かったら、シンパスは・・・。 忘れては、いけない。 “ヒトゴロシのことを、俺は恩人だなんて思わないからなっ!” ・・・すでにヒトゴロシだと知らないから、言われた言葉。けれど、それを真実だと信じたい。 “お前は俺も、殺すんだな” いや、真実ならば、殺したのだ。けれど、けれど・・・。 「・・・殺したくない」 やり直せるわけはない。死んだ者は、二度と甦らない。 それでも、やり直したい。・・・やり直せないなら、二度としない。 「俺が・・・俺しか出来ないんだ」 これからもずっと、揺るがせてはいけない決意。向き合うのはつらくとも、過去も現在も忘れることなく・・・。 「・・・これも、運命かな」 コウ、と呼びかけたけれど、返事はなかった。当たり前だ。・・・もう、いないのだから。
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