fate and shade 〜嘘と幻〜

〈風〉   三章 “ヒト殺し”   7





 今ちょっと魔法使えないから。

 旅に出ると同時に、質問を受け付けぬ強い口調でシルフィラが宣言する。その格好はすでに男のそれへと変わって(戻って)いる。ただ、長い髪だけは解いて背に下ろされたまま。起きるとすぐ、櫛で梳かしていた。ごく緩くウェーブがかかっていて、ふわりと柔らかく痛みのないつややかさ。男の格好をしていても、これでは女とも見間違える。と思いつつ、シンパスは尋ねた。

「どうしてだ?」

「どうしても。あえて言うなら、日が悪い」

「・・・魔法を使うのに、日の良し悪しが?」

 俺にはある、と断言するので、それ以上は訊かない。ガディスも昨日の二の舞を踏むことはなく、じゃあ守ってやるよ、と軽口を返した。

「自分の身くらい自分で守るけど・・・うん、よろしく」

 任せとけ! と胸を叩いて受けたガディスにシルフィラは笑い、

「まあ、自分を守る術じゃ、コウには負けるだろうけど」

 そう付け足して、自らはっとする。コウって? そう尋ねようかどうかと考えて、シンパスもガディスも止めておいた。自分の言葉に自分でびっくりする、なんて時、訊いたら答えるか? ましてや、つい昨日の件もある。聞かなかったフリをするのが無難だ。

「俺、強いぜ? 遠慮しないで、どん! と任せておけよ!」

 ガディスは微妙な空気を払拭するようににかっと笑って、もう一度その胸を叩いた。シンパスも言葉少なに、俺もいる、と腰の剣を鳴らして戦力を強調する。

 ありがとう、と淡く微笑んだシルフィラの、どこか沈んだ表情がしばらく目に焼きついた。




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