一章 “セレィス王の杖” 3
「あれ、今まで会ったことなかったんだ?」 さも当然のようにそう言われ、十織はむっとする。 「何、会ったことなかったらおかしいわけ?」 別にそういうことじゃないけど、と慌てる青年。怯えすぎ、とその頭を小突く女性。十織の司書仲間である彼ら、茶髪青目の青年はキィス、金髪緑目の女性はセレフェールという。 「で、あれ、誰。知らないんだから、教えろ」 キィスでは駄目だとセレフェールへ目を向けた十織は、剣呑な目付きでそう訊く。問われたセレフェールは、 「トールはその子ども、王の隠し子だと思ったのね。ああ、おかしい」 そうくすくす笑うと、いいわ、教えてあげると短い説明をする。 ――いわく、あれは王の杖である、と。 「……杖?」 何のことだと首を傾げた十織に、キィスが説明を付け足す。 「セレィス王の杖は、人型をとるんだ。リーレス様があのような姿にと望まれたから、あの杖はあんな子どもの姿をしているのさ」 王と王妃の娘、ファリナによく似た姿。たった一文字違いの名。リーレスが何を望んだのかなど、明白だ。 「……兄弟って、わけ」 杖が、兄弟。それをごく普通に受け入れ接する家族の豪胆なこと。 「可愛いわよね、王の杖。ファリナ様と一緒にいる時なんて、本当、双子みたい」 「トール、気に入られたんだろ? 次会ったら、ここに連れてきてくれよ」 「あら、いい提案ね。私なんかほとんど会ったことないから、楽しみだわ」 そして……杖が人型をとることを、何のてらいもなく受け入れる者達。いつまで経っても異世界の常識を拭いきれない自分に、十織は苦笑を浮かべるのだった。
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