何かが変わると思った

十章 “遠い国の物語”   1





 ルウロとリーエスタは、二人で廊下を進んでいた。二人で仲良く仕事をしている、なんてわけではない。たまたま食堂で出会い、そのままなし崩し的に会話をしている。そんな二人の前に、仕事中らしく本を抱えた十織とセレフェールが通りかかる。会釈と短い挨拶を交わしすれ違った時、ふと、何か感じた気がして、ルウロとリーエスタは同時に振り返った。

「……今、何か」

「魔術の気配というか……精霊の気配というか、妙な感じが」

 しましたね、したな、と言い合い、通り過ぎていく背中に視線をやる。珍しい黒髪の十織と、明るい金髪のセレフェール。見る限り、二人の女性におかしなところは一つもなく、ただ笑い合う声が、空気に華やかな色を付けていた。

 

 

 

 

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 馬鹿じゃないの、と十織が嘲れば、少女は、貴女失礼よ! と実に可愛らしい声で怒鳴る。華奢で美しく儚げな少女、アーリエスタ。美しい金の髪は光を散らして空に舞い、澄んだ青の瞳はまるで空を映した鏡のよう。純白のドレスに身を包み、衣服の間からのぞく肌は雪のように真っ白だ。

「ひどいわ! どうして、馬鹿だなんて言われなくてはならないの!」

 頬を染め憤慨する様すら、美しく気高い。その容姿はアーリエスタの誉れ、しいては国の誉れだ。……アーリエスタは一国の王女。その全ては、国のもの。

「だって、馬鹿でしょ? そんなところに閉じ込められて、来るかもわからない王子様を、ずっとずっと待ってるだけ。大人しく縮こまって毎日ただ泣いてれば済むなんて、楽でいいね」

 傷付いた顔をするアーリエスタに、十織は追い打ちをかける。

「私、あんたみたいなの大嫌い。守られて大切にされるのが当たり前だと思ってんだろ?」

 状況に甘んじて流され、自分は不幸だと泣くばかり。他力本願で、わがままで、可愛がられることしか能がない。

「……大嫌いだ」

 力を込めてもう一度言えば、アーリエスタはほろりと涙を流し、私だって好きでこうしているわけではないわ、と本音を吐いた。




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