十章 “遠い国の物語” 3
アラバサスは、十織から渡された修正済みの本の中身を確かめて、繰り返しため息をついている。 「トール……これは、修正とは言わないだろう」 落丁、ページ間違い、本の汚れ、全て問題はない。しかし一冊、抜けていたページを書き直したらしいそれが、問題だ。十織の、角張った神経質な文字。一目見てわかる通り、そのページに“創作”したのは十織以外の何者でもない。 “その時から、アーリエスタは、姫として国に仕えていくことに疑問を持ち始めました。父親にこうして塔に閉じ込められてまで、大人しくしていなければならない理由はないと気付いたのです” ――姫はそして、塔を脱出して旅に出る。一人の人間として、生き始めるのだ。 そんな結末になっていた。 「……困ったな」 こうして結末を変えられては、一般に読ませるわけにもいかない。しかし、本来の物語への解釈として、こうした内容も確かに一理あるのだ。 「……書庫行き、か」 残念ではあるが、書棚には置いておけない。アラバサスは深いため息をつき、閉架書庫の友人に“遠い国の物語”を手渡すため、廊下を進んだ。
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