何かが変わると思った

十一章 “水晶のお姫様”   1





 廊下、並び歩くは再びルウロとリーエスタ。

「……なあ、トール」

 仕事中らしく、何やら書類を持ってすれ違った十織は、二人に会釈をして通り過ぎる。つい先日はその隣にセレフェールがいた。だが今は、

「それ、誰? ……というか、何?」

 乳白色の少女を一人、横に連れていた。

 

 

 

 

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 私は引き寄せられたんです。この方は、変わった空気を纏っておいででしたから。

 

 乳白色の少女マールウーカは、十織に寄り添い、宮廷魔術士の二人に向き合って、そう説明する。マールウーカは、乳白色……そう表現するのが一番正しいような色合いをしている。髪、肌、目、爪まで、全てがまるでオパールのような乳白色。光の加減で青、赤、黄色などに色付く様は、まるで宝石そのもののよう。

「貴女は……精霊ですか?」

 ルウロの問いに、マールウーカは首を傾げる。そのようなものです、と曖昧に答え、

「あの、私、トール様に“お願い”を聞いていただいていて……」

 そう切り出す。同時に、マールウーカ! と十織が声を上げる。その視線は責めるような強さで、ろくでもない“お願い”をされたことは、一瞬でわかった。

「いや、続けてくれ」

「言わないでいい、マールウーカ」

 マールウーカは、十織とリーエスタに挟まれて身を縮こませルウロに視線を向ける。ルウロはマールウーカの目を見て、その瞳に悪意や後ろめたさが見られないことを確認する。

「トール、何を“お願い”されたのです? 言えないようなことでも」

「関係ないでしょ」

「ありませんが、事情によってはお手伝いしましょう。マールウーカ、私達もいた方が都合はいいかもしれませんよ。……一体何を、“お願い”したのです?」

 マールウーカはちらりと十織を見て、ぱくぱくと口を開閉させる。十織はそれをじろりと見つめ、ふうとため息をつくと、

「いいよ。……好きにしたら?」

 そう、諦めたように苦笑した。




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