何かが変わると思った

十一章 “水晶のお姫様”   3





 そして開いた扉の先、マールウーカは他の宝に一切視線をやることなく、奥の壁際に置かれた置物へと駆け寄った。

「姫様……!」

 そう叫び手を触れたそれは、見事な水晶。

「姫様、マールです。マールウーカが、迎えに参りました。……帰りましょう、姫様!」

 水晶がわずかに色付く。ごく淡い青……清浄な気が辺りに満ちて、それはふと形を変えた。わずかに青い、透明な髪と目。そして透き通った肌の、美女。

「マール、来てくれたのね。迎えに、来てくれたのね……!」

 ありがとうと流す涙が、結晶となって床にこぼれる。かつんと、小さな音が雨音のようにいくつも響く。

「そういう、ことですか……」

 得心がいったルウロは、感心して声を上げる。何が何だかまだよくわからないリーエスタは、一体何が何なんだとルウロに助けを求める。ルウロはわかりませんかと苦笑しつつ、教えてやる。

「マールウーカは、あの水晶の仲間……おそらく、虹色石です。ファリオ様と同じく、人型をとった形態の、ものです」

 ようやく状況を把握したリーエスタは、そういうことかと手を打つ。

「つまり、仲間を、助けに来たってことか」

 そのようですと頷き合う王宮魔術士二人からやや離れ、十織は、再会を祝うマールウーカと水晶の女性を見やる。

「……良かったね」

 小さな声で言い、微笑い。静かに身を翻した。

 

 

 

 

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 次の日のこと。リーエスタが仕事をしていた十織を訪ねてきて、昨日はどうして何も言わずに帰ったんだと問う。だってもう用はなかったしと澄まして言えば、そういう理由かと苦笑する。

「お前が勝手に消えるから、マールウーカとお姫様、残念そうだったぞ。すぐ帰らきゃいけないから、お礼も言えないって」

 十織はそうだったんだ、悪かったよと悪びれもせず答える。

「で、用は終わりでいい?」

 聞くだけ聞いて仕事に戻ろうとする十織を、ちょっと待てよと引き留める。

「せっかちだな。渡すものがあるんだ。……これ、お礼代わりだと」

 渡された小袋を傾けると、中からは小さな結晶がころころと転がり出る。

「これは……?」

 不思議そうにそれを日にかざす十織に、それはお姫様の涙だと言う。

「綺麗だろ?」

 手柄を果たしたように得意げなリーエスタを無視して、かざした透明な結晶からいくつもの光が、色付いてこぼれるのを見つめる。

「……うん。綺麗だ」

 十織はしばらく、その美しい喜びの涙に見惚れていた。




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