何かが変わると思った

十三章 “遭遇する似た者同士”   2





 十織はその妙な青年の後について、どこかわからない暗い場所を進んでいた。ついていく義理はないが、今さら引き返せないのも確かだ。

「……ここ、どこ?」

 答えがないのをわかっていながら何度目かの問いを口にすれば、青年はちらりと十織を見、足を速める。

「もうわずかで“外”に出る」

 何一つ答えになっていないが、しつこく訊いても納得できる答えが返りそうにない。十織は黙って、もう少しついていくことにする。

 けれど、もうわずかと言う割にどこへ行き着く様子もない。痺れを切らせた十織は、思いつくまま再度口をきく。

「……あんたは、さ」

 ぽろぽろと、唇から言葉が零れる。

「日本人じゃ、ないよね」

 長い黒髪、黒い目。十織より頭一つ分ほど高い背。黄色人種に近い肌の色。一見すると異世界人のようだが……その雰囲気は、この世界の人々とも、十織とも違う。むしろもっと根本的に、人間ではないような気すらする。

「……あんた、何なの?」

 悪いものではなさそうだ。しかし、善いものとも、限らない。青年は、何も答えなかった。

 

 

 

 

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 叫び声を上げて逃げていった人物には二人とも興味がない。すぐ視線を戻し、向き合う。

「……奇遇だな」

「……ああ」

 出会ったことは一度もなくとも、互いの存在は知っていた。彼らは彼らの世界を共有しているからだ。

 イルクとサイアス。蔵書室と西塔の者は、今、それぞれの領分から出て、同じ場所へと向かう。その先にはきっと、彼らの仲間が他にも集まっていることだろう。

「いつか……こういう日が来ると、予想はしていたが」

 案外早かったものだな、と淡々とイルクが言う。

「私には、長かった。……ああ、しかし、ここ最近は、時間の流れも早く感じていた」

 それに答えるサイアスの落ち着いた声音。二人は肩を並べ、足を前へ出す。彼らのような者達にでも、やらなければならない仕事はある。その仕事を片付けるために動き出すまで、少しは余裕があるだろう。

「……あの娘には、会ったのだろう」

 ぽつぽつと語る彼ら。異世界から来た娘は、今頃きっと、彼らの向かう先にいる。こことは違う世界から来た者。

「ああ、会った。……少し、似ているな」

 誰にとは、あえて言わない。そんなこと、わざわざ言うまでもないからだ。

 イルクとサイアスは、それからただ静かに廊下を進んだ。

 

 

 

 

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 連れて行かれた先には、森。穏やかで、温かく、ぽっかりと日の当たる……“聖なる”とでも形容したくなるような、森だ。

「……ここ、は」

 眼前には異様な光景があった。多くの見知らぬ者達が、背を伸ばして立っている。その数、五十ほど。広くもない森の広間は、ひとで溢れてしまっている。

「……何、なの?」

 何が何だかわからないが、尋常でないことだけは、今はっきりと理解した。

 

“お前も来るか。来るなら、ついてくればいい”

 

 いきなりどこかから現れて、前置きも何もなく、ただそう言われただけついてきただけ。この場にいる理由一つ、十織には見当もつかない。




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