十五章 “赤い空” 1
十織は夢を見ていた。夢だということが、夢の中でわかっていた。 高校の制服である紺のセーラー。茶色のスカーフと膝上の長さのスカートが、風に吹かれて揺れる。一つにくくっただけの長い髪が、絡まるように背後へ流れる。 坂を下れば、じき家だ。ふと空を見上げる。赤い、赤い空だ。夕暮れの光が、街を染める。ちらりと振り返る。背後はもう、夜だった。帰らなければ、と思う。 帰ろう (――帰りたくない) 家に帰ろう (――帰らなくては) あそこが私の家だから (――他に行く場所なんてないから) 坂を下る。夜に追い立てられるかのように。 ********** アルスは夢を見ていた。夢だということが、夢の中でわかっていた。 買出しを言いつけられて、かごにパンと果物を入れて帰る。視界の隅で銀色が揺れる。精霊返りだという銀の髪。そのせいか強い魔法の力。わずかに風を起こしてみる。梢が揺れてざわめいた。 街から少し外れて、森の端にある家を目指す。目前に迫る夕闇の気配。ちらりと振り返れば、夜があちらからやってきていた。 帰ろう (――早く帰ろう) 家に帰ろう (――少し帰りづらい) あそこが俺の家だから (――二人きりの家になんて) 森までの舗装されていない道を進む。夜はすぐそこに迫っている。 ========== ひとは、家に帰らねばならない。そこに待つひとのいる限り。 ――そう、待つひとがいない家ならば、帰らずともよい。けれどその時は、たった一人、どこか戻る場所を、見つける旅に出なければならない。
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