何かが変わると思った

十五章 “赤い空”   1





 十織は夢を見ていた。夢だということが、夢の中でわかっていた。

 

 

 高校の制服である紺のセーラー。茶色のスカーフと膝上の長さのスカートが、風に吹かれて揺れる。一つにくくっただけの長い髪が、絡まるように背後へ流れる。

 坂を下れば、じき家だ。ふと空を見上げる。赤い、赤い空だ。夕暮れの光が、街を染める。ちらりと振り返る。背後はもう、夜だった。帰らなければ、と思う。

 

 帰ろう (――帰りたくない)

 家に帰ろう (――帰らなくては)

 あそこが私の家だから (――他に行く場所なんてないから)

 

 坂を下る。夜に追い立てられるかのように。

 

 

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 アルスは夢を見ていた。夢だということが、夢の中でわかっていた。

 

 

 買出しを言いつけられて、かごにパンと果物を入れて帰る。視界の隅で銀色が揺れる。精霊返りだという銀の髪。そのせいか強い魔法の力。わずかに風を起こしてみる。梢が揺れてざわめいた。

 街から少し外れて、森の端にある家を目指す。目前に迫る夕闇の気配。ちらりと振り返れば、夜があちらからやってきていた。

 

帰ろう (――早く帰ろう)

家に帰ろう (――少し帰りづらい)

あそこが俺の家だから (――二人きりの家になんて)

 

 森までの舗装されていない道を進む。夜はすぐそこに迫っている。

 

 

 

 

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 ひとは、家に帰らねばならない。そこに待つひとのいる限り。

 ――そう、待つひとがいない家ならば、帰らずともよい。けれどその時は、たった一人、どこか戻る場所を、見つける旅に出なければならない。




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