十五章 “赤い空” 3
赤い空が世界を覆って、人々は夢を見た。同じ夢だ。 家がある。誰かの待つ家が。そこに帰る。夜に追われて。 幾人が、目を覚まして涙を流したことだろう。赤く腫れたまぶたで、朝までのわずかな時間を過ごしたことだろう。 呆然とベッドの上に座り込んでいた十織は、窓から射し込む光に気付いて視線を上げた。目は赤い。頬に涙の痕がある。 朝日は緩やかに室内を満たし、漠然とした頭を覚醒に向かわせる。ぎこちなく、手を動かす。足を動かす。窓を開け、早朝の空気を肺に取り入れる。冷たく、柔らかな風が吹く。 「……うん」 すると、自然と落ち着いた。頑なに認めようとしなかった心の底の想いが、自然と湧き上がる。それは、 ――郷愁。 戻りたくないと、帰らないと、そういくら思っても、十年以上暮らした場所が、家族の影が、脳裏にちらつく。忘れられない。まだ、大切に思っている。帰りたい?わからない。でも、大切だというその想いだけは、確かなようだ。 「……そう、か」 その事実だけはすんなりと受け入れることができて、十織はほうと息を吐いた。
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