何かが変わると思った

十五章 “赤い空”   4





 気分転換に朝の散歩を、と適当に王宮内を歩き回っていたら、ばったりアルスに出くわした。二人とも嫌そうな顔をしたものの、お互い同じような様相なのに気付き、揃って苦笑を浮かべる。

「お前もか」

「そっちこそ」

 顔を合わせれば口喧嘩ばかりしていた二人にしては、大きい進歩だ。妙な距離感を保ちながらも、会話が成り立つ。

 どこへともなく、並んで進む。ぽつぽつと言葉を交わす。

 それからふと、アルスが問うた。

「お前は……帰らないのか?」

 それはいつもと同じようで、微妙に違う問いの形。十織は躊躇い、それから、帰らないと答える。あの夢を見たくせにと落胆した様子のアルスに、ため息で告げる。

「あそこは大切だよ。それは本当。でも、私は、帰らない。……私がいない方が、きっと全部、うまくいく」

 そこにあるのは、諦観。アルスは何か言おうと思ったが、結局何も思いつかず、口ごもる。十織の真似をするようにため息。

「……強情」

 忌々しげにそう言えば、十織はにやりと笑う。

「強情で結構。第一、お互い様だろ」

 言い切る十織に、救いようがないとばかり、アルスは天を仰いだ。

「……もう、知るか」

 そして初めて、諦めの意思を口にした。




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