十六章 “かくれんぼの人々” 1
ちょっと来て、と言われてファリナに連れてこられたそこには、何だかとんでもない数の誰かがいた。知らない者達が数十人、知ってる者達も数十人。イルクがいる。サイアスがいる。リーレスがいて、アルスがいて、ルウロがいる。拓考までいた。 「な……何?」 戸惑って首を傾げる十織に、ファリナは満足そうな笑みを向ける。 「大変だったわ。やっと揃った」 どういうことかと目線で問えば、ファリナはにこりと笑う。 「これから、かくれんぼをするの。トールさん、付き合ってね」 ……事情を聞いても、意味がわからなかった。 ========== 鬼はお父様よ。ほら早く、隠れてちょうだい、トールさん。 そう言われ、事情を訊く間もなく放り出された十織は、混乱した思考で律儀に隠れる場所を探す。 ファリナは十織を、王宮から随分離れた場所まで、魔術によって連れてきたのだった。そこは鬱蒼とした森で、飛び出た根や湿った土、枝を伸ばした低木などが邪魔をして、中々歩きにくい。しかし、隠れる場所は多くあった。十織は大きな木の陰に身を潜めた。そこに、 「そちら、一緒してもよろしいですか」 そう問うて近付いてくる男性に、訝しみながらも頷く。ありがとう、と笑みを見せた男性の髪は青灰、目は薄茶。年の頃は三十代前半ほど。ひとの良さそうな雰囲気だ。 「……あの、質問していいですか」 男性が横に座るのを待って口を開く。どうぞ、と視線で促され、この状況は一体何なのか、十織は説明を求める。 「ああ、貴女は、知らないんですか」 驚いたようにそう呟く男性に、胡乱な目を向ける。すると男性は、どこか寂しそうな憂いのある微笑みで、 「まあ、近いうちに、わかります」 そうはぐらかす。うやむやにされむっとしたが、しつこく訊いても応えてくれなそうなので、小さなため息をつき視線を逸らした。そんな十織に、男性は独白するように語りかける。 「王様も、王女様も、魔術師の皆様も、あの精霊様も……この国は本当に、お優しい方ばかりです」 どこか、遠くを見つめる目。しばらくぼんやり中空を眺めて、男性は十織へと穏やかな笑顔を見せた。 「まあ今は……楽しみましょう。無粋な疑問も後悔も、後ですればよろしいことです」 その笑みがとても満ち足りて見えて、十織は苦笑する。楽しそうですね、と言えば、楽しいですよと男性はさらに笑みを深くする。いい歳した男性がかくれんぼではしゃぐのかと呆れながら、口では、 「よかったですね」 嫌味でなく、そう言う。男性は微笑んで、はいと頷いた。 どれから、しばらく。十織と男性の隠れている場所にリーレスの鼻歌が聞こえてきて、十織はその場からこそこそと移動を始める。ちらり、男性に目をやれば、彼は、 「貴女はお行きなさい。私はここで……待っています」 お話できてよかったですよ、と手を振り、十織を見送った。
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