何かが変わると思った

十六章 “かくれんぼの人々”   2





 次に十織は、小川の側にある巨石の影に向かった。そこにはすでに先客がいて、それはふわふわした薄茶の髪と、鮮やかな赤い目をした少年と少女だった。よく似ている。双子か、と確認するように口に出せば、こくりと頷きが返った。

「お姉さん、ここ、隠れたいの?」

「え? あ、いや、邪魔なら他探すけど」

「ううん。邪魔じゃ、ないよ」

 少年が問い、少女が許可を出す。こっちこっちと手招きされ躊躇い気味に近付けば、少女は少年の背に半ばしがみつくように怯えつつ、あの、と十織に声をかける。

「貴女……も?」

 “も”の意味がわからず眉をひそめれば、少年が呆れたように少女に言う。

「馬鹿、違うだろ。よく見ろ」

 話が読めず険しい顔をする十織をびくつきながら凝視した少女は、ああ本当だと呟く。

「そっか……お姉さん、大変だね」

 そして、同情的な視線を向ける。十織は険しい顔をさらに険しくさせたが、しばらくしてふうと息を吐くと、

「あんたに何がどうわかるのか、知らないけど。……あんたも、大変だね」

 とりあえず、そう答えておく。人見知りなのか臆病なのか、怯える少女。庇うように対峙する少年。なかなかに難儀そうな兄妹(もしくは姉弟か)だとは、思った。

「……そう、だな」

「……うん。大変、だったよ」

 双子はふと顔色を曇らせ、どこか遠くへ思いを馳せた。今ではないところを見つめるその顔はまるで年取った大人のようで、十織は何を言うでもなく、意識が戻ってくるまで見つめていた。

 長い時間が過ぎ、どこか遠くで笑い声が聞こえた。

「……でも、楽しいことも、あったね」

「……あったな」

 双子はふと瞬きをして、過去の残滓を自らの中から追い出した。

「今も、それなりに楽しいんじゃない?」

 何とはなくそう言えば、二人は赤い目を見合せて、

「ああ」「うん」

 にっこりと微笑んだ。

 

 またしばらくして。私達はここにいるから、お姉さんはもう少し奥に隠れた方がいいよ、そう助言され、十織はさらに森の中を進んだ。




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