何かが変わると思った

十七章 “神と神”   1





 きっと、何か欠けたものの方が、ずっとずっと強いのだ。

 彼らは、完璧などないと、知っているから。

 

 

 

 

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 いつも通りの廊下を、いつも通りに歩いていた。その十織の前に、ぱっと人影が現れる。前触れなく、いきなりだ。

「あ、んたは……」

 十織や拓考、多くの日本人のそれよりももっと深い、黒の髪。黒の目。姿形はただの青年のようなのに、どこか普通ではない、いつぞやの青年。ジルオール、と名乗った青年は、まさしく射抜くような目で十織を見る。一言問う。

「もう時間はない。決めたのか」

 話が読めない十織は小首を傾げ、何のことだと訊く。ジルオールはしばらく凝視した後、

「……俺は言った。覚悟はしておけ、と」

 最終勧告のような言葉を残して、現れた時同様、その姿を掻き消した。

「ちょっ……! 待ちなさいよ!」

 ジルオールの物言いに、何かただならないものを覚える。そこに最近思っていた疑問の答えがあると直感し、消えた背を追いかけて王宮の廊下を闇雲に走りだす。

 

 ……その後ろ姿がいつしか消え失せたのに、気付いた者はいなかった。

 

 

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 ここ最近、アルスがおかしい。ずっと王宮にいるのに、十織の下へ来ない。それどころか、擦れ違っても何も言わない。……むしろ、何かを言わないように、避けてさえいるようだ。

「どう思う?」

 それをセレフェールに問えば、ううんと唸り、考え込む。

「何かしらね。……ここ最近、他のひと達も、何だかおかしいし」

 ルウロさんとかリーエスタさん、ファリナ様も何だか元気がないみたい、とセレフェールは不安げに顔を曇らせる。

「ねえ、キィス。何か心当たりはない?」

 キィスは、俺もわからないと首を横に振る。

 

 ――ここ最近、王宮の中が、何だか変だ。

 誰もがそれに、勘付いてはいた。




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