何かが変わると思った

十七章 “神と神”   2





 神は長い間問うていた。何故、彼がこの世界を捨てたのか。何故、自分は一人なのか。

 元々、二人で創り上げた世界だった。ひとと精霊、世界に生きる二つの命。

 見守るのとは違う。世界は、二人の神が管理し、命が育つ箱庭。遊びの延長だった。

 遠き昔、神の一人は世界を捨てた。そして、もう一人の神の下を去った。

 ――私達は間違いを犯したのかもしれない。この世界は、手に余る。

 去った神は、最後にそう呟いた。

 そして、その意図するところは今なおわからずとも、残った神も、去るべき時を見定めた。

 

 二人の神に創られた世界は、神なき世界となる。

 

 

 

 

==========

 

 気付けば十織は、どことも知れぬ場所を走っていた。どこだかわからない場所を、意味もなく、走っていた。

 ……何故走っているのだろう?このまま走って、どこへ着くというのだろうか。

 ただ、足を止めてはいけないと思い、走る。息が切れ、乱れた髪は頬に張り付く。酸欠でくらくらしてくる。引きずるような足が重い。

 止まってはいけない、後ろを見てはいけない、走り続けなければいけない。

 

 そう、十織はそうやって生きていなかければならない。

 

 

「……それがお前の神か」

 ふと、誰かに腕を引かれ体勢を崩す。足が止まる。その恐怖と怒りで腕の先にある顔を強く睨みつければ、青年はもう片方の手の平で軽く十織の頬を叩いた。

「呑まれるな。己を保て」

 深い黒の瞳が、静かに十織を見つめる。その闇のような黒を見ていると、十織の中から徐々に熱い感情が抜けていき、代わりに困惑が広がっていく。

「あ……」

 何を問うべきか、言うべきか、思いつかずに口を開閉させる十織を鋭く見つめた後、ジルオールは手を放す。十織は一歩距離を取り、ジルオールの瞳を見つめる。……その背を追って走っていたことに、思い至る。

「あんた……何。何なの?」

 ジルオールが“何”なのか。事ここに至り、十織はようやくそのどうしようもない違和感に冷や汗を流す。ジルオールは嘆息し、ついていてこいと顎で言うと歩き出す。

「……どこに行く気?」

 警戒して動かない十織に視線をくれることもなく、ジルオールは言う。

「この創られた世界の中で、俺達が一体どこへ行けるというんだ」




前へ   目次へ   次へ