二章 “王宮の明るい廊下” 3
すぐ横の扉が、いきなり開いた。 「っ?!」 「下がれ!」 アルスに押しのけられたたらを踏んだ十織は、どうにか転ばずに耐え、前に立つアルスの背中越しに向こうを見る。そこには、 「おお、全然無事だな。さすが!」 軽いノリの青年が明るく笑っていた。 「……リーエスタ!」 驚いて声を大きくしたアルスの肩にぽんと手を置き、ようアルスと笑ったリーエスタは、金茶色の髪と目をその肩越しに十織へとやる。 「ト−ルも。ええと、五日ぶりくらいか。元気?」 その能天気な笑みに、思わずため息が出る。何であんたが出てくる、と嘆くように言えば、リーエスタはウインクを飛ばす。 「そりゃ俺は、宮廷魔術士だからな。自分の陣地内で妙な魔術の気配があれば、様子を見に来るのは当たり前だろ?」 それもそうなので、十織は不満げに黙る。 アルスが、助かったとほっと息をつきながら、リーエスタの開けた扉をくぐる。その後に十織も続き、二人は“明るい廊下”を脱した。 とにかく無駄に明るいリーエスタは、十織とアルスの間の気まずい空気など気付きもしないで喋り、嵐のように去った。残された二人はしばらく並んでその背を見送り、それから、何も言わずに背を向け合う。 ――二人の想いは、平行線を辿る。
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