三章 “蔵書室の主” 2
イルクは、アラバサス司書長の友だと言った。そういえば、あのごく普通のおじさんに見えるアラバサスには、珍しい友がいるという噂だ。きっとイルクが噂の君なのだろうと、十織は推測する。 「あなたは、何でこんな場所にいるんです?」 尋ねると、イルクはリストを十織の手から奪い取り、こっちにあると前に立って案内しながら、 「いたら悪いのか」 そう言う。書庫は、最下層以外には鍵一つかかっておらず、誰でも出入り自由だ。悪いなどと言えるわけがなく、別にそういうわけではないけど、と言葉を濁し、口を閉じる。イルクはさらに一階下りる。十織は静かについていく。 「これで八冊、全部だ」 そして、回り道一つせず本を集めた。どこに何があるか、正確に把握しているのかもしれない。目を丸くしていると、微笑一つ浮かべることなく、 「お前は、異世界の者か」 唐突に問う。十織は頷き、すっと視線を細めると、それが何か悪いんですかと先ほどの言葉を逆手に取る。イルクは何も答えず、懐から一冊、厚さのない、題名もない本を出すと、十織が抱える本の山の一番上にぽんと置く。 「? ……何ですか、これ」 そのまま、用は終わったとばかりに背を向ける。 「ちょっと!」 声を大きくした十織を振り返ることなく、イルクはそのまま去っていった。 「……何なの、一体」 十織は床に本を置き、一番上に置かれた本を躊躇いながら手に取る。そして、しばらく考えた後、それを上着のポケットにねじ込んだ。
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