何かが変わると思った

四章 “魔術師寮と騎士寮の隙間”   1





 王宮の端には、隣り合って二つの寮がある。魔術師と、騎士。互いの領分で生きている割に、彼らは案外仲が良い。そして十織はといえば、本の取り立てで魔術師寮を訪れることが多いので、自然と魔術師とは仲良くなる。魔術師もとりどりで、騎士に負けないほど体を鍛えている者とか、魔術より槍が得意といった輩もいたりする。

 

 その日、いつも通り本を返してもらいに魔術師寮を訪ねた十織は、成り行きで妙なことになっていた。

「トール、怖ければ俺と手をつないでもいいんだぜ?」

「やだ」

「そんな即答しなくてもいいじゃねえか」

「汗臭い、汚い、寄んな」

「……」

「さすがトール。的確に弱点突くな」

 快活に笑うほっそりとした騎士の青年が、トールに撃沈された魔術師の男のいかつい肩を豪快に叩く。この騎士の青年……濃い茶色の髪と目をした彼、エルグに遭遇すると、十織は十中八九何かに巻き込まれる。

「トール、あんまりガイをいじめてやんなよ? こう見えて繊細なんだからさ」

「じゃあ、私に声かけなきゃいいんだ。強引に巻き込んだ癖に」

「だって、お前いると華やぐんだよ。中身はどうとして外見はいいしさ」

「一言余計だよ、エルグ!」

 睨めば、エルグはちょろっと舌を出し、わざとらしく視線を逸らした。

 

 

 

 

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 ……ガイルジオという名のいかつい魔術師。彼はふた月前に蔵書室から本を借り、今まで返しに来ていなかった。催促とともに本を奪取しに来た十織は、談話室にいたガイルジオと、彼と話していたエルグと会ってしまった。

「おお、トール、ちょうどいいところに!」

 そして、逃げる間もなく、彼らの企みに引っ張り込まれたのだ。




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