五章 “王女の子” 1
廊下を歩いていると、前方から二人の子ども。ファリナとファリオだ。 「あ、トールさん。こんにちは」 十織に気付いたファリナが、廊下の向こうから笑顔で大きく手を振る。十織は会釈をして近付く。 「こんにちは、ファリナ様、と、ファリオ……様。どちらへ?」 人型をした王の杖はどう呼べばいいだろう、むしろ挨拶はすべきなのか、と考えながら、十織は社交辞令としてそう訊く。きらきらと笑うファリナは、十織の問いに、 「娘に会いに行くのよ!」 そう元気よく、答えたのだった。 ========== 「娘ですって?」 セレフェールもまた、信じられないという表情をした。どうやらこれは、王宮の常識ではないらしい。 「娘って、ファリナ様、まだ八歳だろ。そんな、まさか……」 あらぬことを考えたらしいキィスが、顔を赤くしたり青くしたりしながら呆然と呟く。八歳じゃ子どもはできないわよ、と突っ込みを入れたセレフェールはまだまともなようだ。セレフェールの言葉に頷いた十織は、噂の“娘”について考えを巡らせる。きっと、犬や猫のようなもののことを、娘と言っているのではないだろうか。そう思う。試しに二人に尋ねてみれば、 「そういえば、ファリナ様、綺麗な黄色い羽の鳥を一羽、飼っているわ」 セレフェールがそう答える。 真偽のほどは知らないが、そういうことにしておこうと、話の決着はついた。
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