何かが変わると思った

七章 “城下の店”   2





 ゲルグが選ぶものは、今この時その人物に最も必要なもの。それが何かはわからない。しかし、出されれば必ず思う。……ああ、これが欲しかった、と。

 “何でも屋”と名乗ってはいるが、巷では“願い事叶え処”などと呼ばれもする。常連となって毎日のように通う者もいれば、ここぞという時に訪ねる者もいる。セレフェールはどちらかと言えば前者で、仕事の関係で毎日は来られないだけだ。

「ああ、そっか、そうね。確かに、そうだわ……」

 先にそれを渡されたセレフェールは、感心して笑顔になる。その手にあるのは、何の変哲もない手鏡。そういえば二日前に割れてたわ、と呟く。

「お次は貴女ですね、トールさん。すいませんが、お手を……」

 貸していただけますか、と言われ。十織は躊躇いつつ、右手を差し出す。興味があると連れてきてもらったのは十織自身であるから、嫌だと駄々をこねるつもりは元々ない。

 十織の手をそっと両手で包んだゲルグは、半眼になって前方を見つめる。その視線は十織を見通して、さらに遠く、どこかへ向けられている。

「そう、ですね」

 しばらくして、そうぽつりと呟いたゲルグは、十織の手を離す。店の奥に行き、何か手に持ち戻ってくる。

「こちらが、よろしいかと思います。お持ちください」

 手渡されたのは、背面のある四角い枠のようなもの。飾りもない、両手の平に乗るほどの。

「おじさん、それは何かしら?」

 当然尋ねたセレフェールにゲルグは、

「さて。それをどう使うかは、この方次第」

 意味深に微笑んだ。

 

 ゲルグから必要なものを受け取った二人は、それを手に店を出た。




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