何かが変わると思った

八章 “城下の服屋”   1





 城下にはおかしな店がいくつもある。そう、いくつも。その日十織がふらりと入ったその店も、そうした中の一つだったということは、後々知った。

 

 

 冷やかしに入った店は、服屋だった。何の変哲もない女性服――ローザリアの女性は長袖にロングスカートが通常だ。四季がないので衣替えもしない――が売られていて、不思議なことに全ての服が、

「……無地?」

 である。随分地味だと思いながら適当に見回っていれば、あらいらっしゃい、と快活な言葉がかかる。

「何をお探しかね、お嬢さん」

 そう訊かれて、別に何もと答える。しかし店主らしいおばさんは、貴女には何色が似合うかしらねえと呟きながら、主にスカートの辺りを見回る。

「あの、いいです。見てるだけなんで」

 すぐに店を出ようとすれば、これにしようと引き留められる。

「あの……」

「髪も目も、珍しい、綺麗な黒だものねえ。服も黒にしよう。それで、華やかな柄を付けようか」

 押しの強さに負けた十織は嘆息し、せめてショールか何かにしてください、と商品の交換を要求する。

「そうかい……? じゃあ、これにしようか」

 おばさんは少し残念そうに真っ黒なスカートを棚に戻し、金糸で縁取りがされた黒の大判ショールを手に取ると、じゃあ始めよう、と笑った。




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