何かが変わると思った

八章 “城下の服屋”   2





 ヒルダと名乗ったおばさんの独特の押しに負けた十織は、今何故だか、片手に布、片手をヒルダと繋いで、瞑想している。瞑想といっても、大したことではない。ただ、思い浮かべているだけだ。この味気ない布を飾る、華やかな色を。

 

 ヒルダは言った。この布を、貴女が思うもので飾ろう。そのための力は、私が貸してあげるから。

 この黒の布を彩ると言われ、十織が思いついたのは一つだ。淡い花。薄白と桃色の……。

 

 

「あら、まあ!」

 ヒルダの歓声に十織は目をぱっと開ける。

 

 ――散り際の桜。突然の大風に吹かれ、ひらひらと空を流れていく。

 

「綺麗ねえ! ……見たことないけど、お花だね」

 綺麗だ綺麗だと連呼するので、桜というんですよ、と教えてやる。異世界の花ですよ、と付け足せば、貴女は異世界人かね、と今さら気付いたようだ。ヒルダは目を丸くする。

「そう。サキュラ、かい。こんなに綺麗なお花が咲くんだね。そっちには」

 綺麗ねえともう一度言い、咲いてる時は見事でしょう、と訊かれる。十織は苦笑を返し、

「桜が一番綺麗なのは」

 ……その花が一斉に散っていく瞬間なんですよ、と答えた。




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