何かが変わると思った

八章 “城下の服屋”   3





 白と淡桃色の花が咲く一枝と、そこから風に吹かれて散りゆく花雪。染められた桜の花弁の微妙な色遣いは、まるで写真のような精巧さだ。それほど緻密に想像できたことに驚く。

「でも、よく思えば毎年見てんだよ、日本人だし。結構、覚えてるものなんだね」

 日本を代表する春の花。桜が咲くと、人々は春を実感する。冬の寒さは終わり、じきに夏が巡りくる。

「桜、ねえ」

 十織はその力強く儚い花を思い出し、しばしぼんやりする。

「……ル、トール? 夕飯食べに行くわよ」

 と、セレフェールが扉の外で呼びかける。はっと意識を戻した十織は、少し待ってと答え、黒のショールを丁寧に畳んで仕舞う。

「ごめん、お待たせ」

 小さく謝り、扉を開ける。並んで食堂へ向かう途中、今日の服屋の話をすれば、

「あら、そこ有名なのよ。おばさんに柄を付けてもらった服を着ていると、幸せになるって話よ」

 セレフェールはそう微笑む。私もそこで服を買ったのよと言うので、今度揃えて着ていこうかと話はしばらく盛り上がった。




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