九章 “異世界人の家” 1
キィスが聞いた話らしい。 “城下の路地の向こうにある家には、招かれた者以外辿り着けない。その家に踏み入れた者は、一つだけ、とても素晴らしいものを土産にして帰ってくる” それを訊いた十織とセレフェールは、面白そうだと笑い、今夜にでも肝試しに行ってみようか、とそういうこととなった。 その路地は少し下り坂で、曲がりくねって、夜ともなるとどこか足元が覚束ない感覚に襲われる。この緩やかな坂の下にあるという家、そこに住むのは、一体どういうひとだろう。 「トール、足元に気を付けてね。キィス、もっときびきび歩きなさい」 「セレフェールこそ、気を付けて。キィス、のろいよ」 「何で俺には厳しいんだよ……」 軽口叩きながら歩く三人の足取りは軽い。何故なら、先ほどの角を曲がった際ようやく見えたその家は、屋敷と言って差し支えなく思えるほどには立派だったが、別に何の変哲もない建物だったからだ。 目の前まで行き、戻ってくるつもりだ。肝試しなど所詮こんなもので、少し夜の散歩に出かけただけだと割り切る。そもそも別に怖い噂などない話題だったのだから、肝試しという言葉自体がやや正しくなかったように思える。 とにかく、彼らはその家の中に入るつもりはなかった。のだが……、 ――いえ、あの、お気を遣わずに。気にしないでください。 困ってそう繰り返すキィスと、疑うような目をした十織にセレフェール。 辿り着いた門のあちら側には、中へどうぞと微笑む青年がいた。
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