<鈍感七題> 3.その無神経に腹が立つ
どうしてマエストロ、いつもいつもこうなのかな。いくら客商売だからって、パンを買っても行かないお客さんなんて、追い払ってもいいものなのに。 サーラはむっとする。そしてふと・・・もしかしてマエストロは女好きなのかなと、そう考えて、愕然とした。 その日からサーラは、マエストロ目当てで店に来る女性の容姿や年を、観察し始めた。髪の色は黒、茶、金。髪型はロング、セミロング、ウェーブ、ストレート。目の色は茶、青、緑。年齢は十代前半(これはただ単に、マエストロが優しいから懐いているだけかも)から五十代まで。共通点は、見出せない。 「・・・ねえ、マエストロ」 そして結局、サーラは問うてみた。女の子が好きなの、と。 「・・・いきなり、何だ?」 忙しい朝食の席で前ぶりもなくそう訊かれたマエストロは、半ば呆然とそう返した。驚きで丸くなった目が何だか可愛い。が、サーラは真剣だ。間の抜けた様子に笑う余裕もない。 「だって、マエストロ。お客さんでもない、マエストロにまとわりつくだけの女の人でも、ちゃんと構うじゃない。それ、おかしいよ」 「おかしくは、ないだろう。・・・そのうち客になるかもしれない」 「でも今は、お客じゃない。遊びに来られて仕事の邪魔されて、そんなのお客さんじゃないでしょ? ・・・私には、もう、飽きたの?」 飽きたら捨てられるのだろうか。子どもの玩具のように。サーラはうつむいて、ため息をつく。マエストロは答えない。答えないまま、早々に食事を終え、部屋を出ていった。 (・・・やっぱり、そうなんだね。マエストロ) 勇気と確信をもって尋ねたことだったが、それが合っているとわかってしまって、サーラはほろりと一粒、涙をこぼした。 その日からマエストロは、自分目当てのお客をやんわりと諭して、パンを買わせるようになった。サーラはその気遣いが、悔しくて悔しくてしょうがない。マエストロはサーラの言葉をちゃんと受け取り、マエストロ周囲の女性を“お客さん”に仕立ててしまった。 (・・・違う) そんな状況になってようやく、サーラは本当の自分の気持ちに気付いた。 ――サーラは、マエストロの気持ちを、確かめたかったのだ。こんな卑怯な方法を使ってでさえ。
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