ミアナの街
ミアナの街は賑やかで道も入り組んで、迷いそうだ。街の宿屋までは御者のおじさんが好意で付き添ってくれて、本当にありがとうございますとお礼を言う。おじさんはちょっと心配そうな顔をして、気をつけてなとぼくの頭を撫でる。そして行ってしまう。ぼくはその背中を見送って、まだ一緒にいた剣士の親子とともに、宿屋で早めの夕飯とする。 「そういえばお前、ミアナに来て、どうするつもりなんだ?」 好奇心旺盛な剣士の息子が、ばくばくとご飯を食べる間にぼくに訊く。ぼくは、ここからさらにルーナリアに行くと答える。すると剣士の親子は揃って不思議そうな顔をする。 「ルーナリア、に?」 「ルーナリア……えっと、あそこは、何だっけ?」 学徒の街だと父親が息子に教える。そうだっけと頷くと、息子はぼくを見つめる。 「で、何で、ルーナリアに? 何か習いに行くのか?」 違うと首を横に振り、ぼくはどうしようかと迷った末、鞄からそれを取り出す。 「実はぼく、セリオールに会いに行くつもりなんです」 題名のない冊子の中身は、ある個人の手記。胡乱げな顔をした剣士の親子は、ぼくが差し出したそれを受け取り、ぱらぱらとめくって、手記の最後のページ、その一文を読み、驚いたように声を上げる。 「セリオール、が……」 「ルーナリア、に?」 ぼくはやや得意げに笑う。そう、セリオールがルーナリアで待っている。 ――この世界アイの筆記者の中でも“書の母”と異名をとるセリオール。彼の書には誰もが世話になっている。四人いる神の筆記者の中で一番多く書を記し、神の言葉を伝えてくれる存在。 「これは、すごい」 感嘆する剣士のおじさんは、しばし考え込んでから、ぼくをひたと見る。 「……ルーナリアまで、私達も一緒していいだろうか」 首を傾げる。剣士の親子は互いに目を合わせて意思を疎通させ、今度は二人でぼくを見る。 「ルーナリアまで、お前を守ろう。勿論、金は取らない」 「俺達もセリオールに会わしてくれ! ……駄目か?」 ぼくは驚いたけれど、駄目じゃないとふるふる首を振り、一緒に行ってくれるの、ありがとう、と礼を言う。セリオールには、会いたい。会わなければと思う。……でも、一人で少し寂しかったのも、また事実だ。 ぼくと剣士の親子は、ルーナリアまで一緒に旅することとなった。
|