ルーナリア
そしてぼくらはルーナリアに辿り着いた。一歩一歩進むたび、心が弾む。もうすぐ、セリオールに会える。書の母セリオールが、ここでぼくを待っている。 でも、困ったことがある。セリオールは、ルーナリアのどこにいるのかを、記してくれなかった。ルーナリアは広い。闇雲に歩いてもそう簡単には見つからない。 「とりあえず、図書館に行ったらいいと思うが」 剣士のおじさんが助言をくれる。確かに、学術都市ルーナリアには、セリオールの本が多く収められている図書館がある。ぼくは頷いて、図書館に向う。 けれどここで、また困ってしまう。ここにあるセリオールの本は、とても多い。その一つ一つを読んで手がかりを探していくなんて、それだけで何日もかかってしまう。 「史書に尋ねてみるといい」 今度もまた、おじさんが助言してくれる。このおじさんは頭がいい。ぼくはまた頷いて、カウンターに腰掛けている総白髪の優しげなおじいさんに声をかける。 「あの、すいません」 「ん? ……ああ、何でしょうか?」 おじいさんはぼくを見て、目を細くする。目尻に皺が寄って、それがぼくのおじいさんの笑い方とよく似ていて、少し安心する。 「あの、ぼく、セリオールの手記を探しているんです。どこにあるか、わかりますか?」 手記と聞いて、おじいさんは目を見開く。 「手記は……セリオールの手記を、君が持っていらっしゃる?」 ぼくは頷いて、鞄から手記を取り出す。おじいさんはさらに目を丸くして、よろしいですかとその手記を手に取る。ぱらりとめくって、ううむと唸る。 「……あの」 唸りながらちらりと目を向けられ、ぼくは心配になる。ぼくが持っていたら何か問題があるのだろうか。 「……君は、本当に、セリオールに会いたいのですか?」 ぼくは大きく一つ頷く。 「会いたいです、どうしても」 おじいさんはさらに唸り、それから、ため息をつく。 「……しょうがないですね。私としては、君のような子どもを、セリオールと会わせたくはないのですが」 そう言われて、ぼくは多分、傷ついた顔をした。おじいさんは慌てて、君のことを批判したわけではありませんよと言う。 「君がそう決めているならば何も言いませんが。ただ、セリオールと会ったら……戻れませんよ」 どういう意味か深く考えはしなかった。どう言われようと、ぼくはセリオールと会うつもり、いや、会うべきだと思っていたから。 ぼくの決意を知って、おじいさんはまたため息をつく。そして、少しお待ち下さいとカウンターの奥に消えていく。しばらく経って戻ってくると、その手には、 「……あっ!」 題名のない冊子。――二冊目の、セリオールの手記が。 「セリオールに会うならば、諦めずに辿りなさい。彼が残した“手がかり”を」 ぼくは満面の笑みで、その手記を受け取る。おじいさんは苦笑とともに、頑張ってと言ってくれる。ぼくはうんと頷く。 二冊目のセリオールの手記には、一冊目同様、天気のことや日常のことが当たり障りなく書かれて、最後のページにはまたメッセージが。 『君に会えるだろうか。私は今、潮の塔にいるよ』 そう書かれている。 「……行くか」 「……行こうか」 ぼくらはそうして、旅を続けるために、歩き出した。
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